47歳からのニューヨーク留学 夢と現実と厳しさと。

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先日ちらっと触れた本、読み終わりました。

白髪のロングヘアが与える印象。

9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学」は日本で確立したポップスミュージュシャンとしての地位を捨て、若い頃からの夢だったジャズピアニストに転向すべく、47歳から単身NY音楽留学という荊の道を選択した男性の記録。

40代からの方向転換、学び直し、音楽、旅、ニューヨーク、海外生活、そして犬。今の私に刺さりまくる要素てんこ盛りの1冊でした。




モータープールとJANUARY

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10代の頃、カセットで繰り返し聴いた音楽は、30年の時を経ても脳の深いところにひっそりと隠れていて、普段はすっかり忘れていても、何かの拍子に再会すれば当時の記憶や匂いと一緒になって面白いように蘇り溢れてくる。

私にとって大江千里という人はとても懐かしい人で、懐かしい音。彼の歌に描かれた景色は私の青春時代のそれと地理的に重なる部分も多くて、余計に甘酸っぱさを増長させるのです。

そんな彼が日本での活動を休止してジャズピアニストに転向したという話は知っていたけれど、詳しい活動についてリアルタイムではまったく追っていませんでした。

本書を読み始めたタイミングで懐かしさが募り、改めて当時の音源を聴きなおしてみる。80年代にリリースされた5枚目のアルバムあたりまでは空で歌える歌も多くて、相当聴き込んでいたんだなと実感。モータープールという文字を見れば、借りてたレコード返しに行かなきゃ、と未だ考えてしまう程度には、今も細かいフレーズが頭のあちこちにこびり付いているようです。

中でも1985年にリリースされたアルバム「乳房」に収録されている「JANUARY」という曲がすごく好きで。

 

今年の年明けにも思い出して聴いていたのだけれど、新年感と降雪感をなぜこうも自然に滲み出させることができるのだろうかなとど考えておりました。

正直なところ、ボーカリストとしてどうこうという感覚は当時から全然持っておらず、メロディーメーカーとして、そして歌詞から垣間見れる言葉の選び方とか切り取る風景の鮮やかさに惹かれていたのだろうなと、今では思う。

前置きが長くなりましたがつまり、カセットテープから30年の時を経て、本書で久しぶりの再会を果たした、というわけなのです。

※以下からややネタバレ注意、そして長いです。

47歳からのニューヨークジャズ留学

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おぼっちゃまっぽいルックスと、熱くポジティブ過ぎるステージング、そして、迸る甘くて淡い青春感。80年代にポップシンガーとして成功したけれど、ご本人は長年の音楽活動で築き上げた自身のパブリックイメージにいつからか

「よっこいしょ」

と今の自分を合わせて行っている感覚が拭えず、さらに真骨頂であるラブソングがどんどん書けなくなってきていたと言います。

大学在学中にメジャーデビューを果たし、瞬く間に人気アーティストの仲間入り。日本の音楽シーンで(ある程度の浮き沈みはあったにせよ)確固たる地位を築きながらもずっと頭を離れなかったジャズピアニストへの夢。ニューヨークにある音楽大学、ザ・ニュースクール・フォー・ジャズ・アンド・コンテンポラリーミュージックに送ったオーディションテープの結果が「合格」だったことで、その夢は目標へと変わります。

もう既に計画が進んでいる日本でのツアーをキャンセルしてまで、この歳で、全てを捨てて、渡米するのか。できるのか。迷いながら音大のジャズピアノ化への入学が承認された、と当時のマネージャー氏に告げたところ

「ジャズがやりたいのはわかってましたから、行ったほうがいいです」

と狼狽えることなく断言されたのも結構大きな助けとなったのでは。

普通、嫌だよね。自分の仕事にも関わることだし、あっちこっちのスケジュール変更とか手間がかかるだけだし。けれど、結局はそのおかげで、彼は47歳にしてニューヨークの音楽大学に入学、ジャズを学ぶことになるのです。

40代から学び直す現実と厳しさ

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で、ここからは長年プロのミュージシャンとして活躍してきたキャリアを活かしてメキメキ頭角を表すサクセスストーリーが展開される…なんてことはなく、ジャズの壁は厚く、ポップスで生きてきた年月の長さは逆にアダとなる。10代、20代の「デキる」同級生から

「ジャズがわかっていない人がいる」

と辛辣な言葉を投げかけられ、ジャズのルールも皆目わからず、必死に練習に励もうにも、集中力は続かず、気ばかり焦って手を傷めてピアノが弾けなくなる悲しき中年学生。聴音の試験で「リズムチェンジ(※ガーシュウィンの”I Got Rhythm”のコード進行のこと)」の意味を理解できなくて、っちゃちゃ、っちゃ、とサンバやワルツとリズムをチェンジしながら歌ってしまうシーンなんかは想像するだけで冷や汗をかいてしまう。

辛い、辛いなあ。同じ音楽というフィールドで一度は成功を手にした人でも、40代後半から方向転換するのはこんなに辛いのか。

ジャズの本場ニューヨークで憧れのミュージシャンから直接指導を受けられる喜びと、

「なぜわざわざ今からジャズをやるの?」
「君はポップスのほうが魅力を発揮できると思う」

と何度も指摘され、それにそっけなく返答するもどかしさを抱えるおじさん学生のニューヨーク留学ライフ。

これ、出発前に公表しただけでもうわあ勇気あるなあ、と思ってしまう。調べてみると2007年12月に更新されたブログにアーカイブが残っておりました。

大江千里から重要なお知らせ(千里の森)

jazzを勉強しに
ニューヨークに行くことにしました。

これにともない日本での演奏活動がしばらく
できなくなりました。ライブ好きな千としては
残念な思いもあります。しかし
大事なことをあきらめてでも、自分にとって
やる価値のあることを今やらなければ
という思いがあり、決心に至りました。

やる価値のあることを、今やらなければ。これはまさに、人生の折り返し地点を過ぎているという実感があるからこその感情。

しかし活動休止理由をファンに対して説明する必要はあるにせよ、留学したとて途中でついていけなくなり辞めてしまう可能性だってあるわけでしょう。実際、彼と同様本国で成功を収めたのちにジャズを目指して同じ大学に来たというスイスや韓国のミュージシャンらは挫折して帰国している。そんな彼らに対して優越感のようなものを持ってしまった心情も赤裸々に描かれている。

はあ、厳しい。

50手前で全てを捨てて学び直し、手探りで方向転換に挑む姿はまさに2回目の青春。長年の夢にようやく足を踏み出す冒険活劇には希望もいっぱいあるけれど、その厳しさと現実は、ものすごく痛いのです。

気になることと、小さくて大きな癒し

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常に一言多い嫌味な先生、タイ人の若きルームメイト、休暇中に共にアメリカを旅する友人、ストリートでの演奏やビッグバンド「モーニング息子。」の活動などなど。印象に残った登場人物やエピソードを挙げればキリがないし、ネタバレだらけになってしまうのでこの辺でやめておきますが、これ、どうやって書いたんだろうか、という疑問は残る。

解説には24回の連載をまとめたもの、とあるけれど、出版が2015年なので、在学中にリアルタイムで綴った記録ではないのかな。ていうことは、回顧録?後から当時を思い出して書いたのか、日記的に綴っていたものを改めて編集したのか、どうなんだろう。ニューヨークにいるからこそ旨いと思えるサンドイッチに目覚めるくだりとか、次々に出会う人たちのキャラクター描写の粒子がやけに細くて、気になってしまう。

連載中はとにかくものすごい量の原稿を編集者に丸投げしていたとのこと。本書も367ページと結構なボリュームがあるけれど、それでもかなり削ったらしく、いやはや、本業の傍でアウトプット量半端ないなと驚きます。

そういや昔、この人が

「英語ができるようになりたくて、全然わからないなりに毎日英字新聞を読み続けていたら、いつのまにかスラスラ読めるようになっていました」

というようなことを語っており、嘘つけ、と思った記憶が。でも、今考えたらあながち嘘じゃなかったのかも。それくらいの偉業(?)は余裕でこなせてしまう人なんだろうなと本書を読んで思った次第。

我が事に投影するにはスケールが違いすぎてアレだけど、学びへの刺激はもちろん、また旅に出たくなったし、しばらく異国で暮らしたいとか、ニューヨークでジャズ聴きたいななんて思えて、読み物として純粋に楽しめたこの本。でも、もしもピアノが弾けたなら、そしてジャズをもっとわかっていたならばさらに楽しめただろうから、その点は(自分が)ちょっと残念です。知っていることで楽しみが増えるのならば、やっぱりもっと知りたいよねえ。

 

さて、チクチク痛い中年留学生記録の中で、大きな癒しとなっていたのは相棒の「」の存在。渡米当時まだ1歳だったダックスフンドの女の子が愛らしすぎて、思わずInstagramをフォローしてしまったのだけれど、コメント欄の賑わいにビビりました。

なぜってそこには60手前のおっさん(失礼)に対してきゃー千ちゃんかっこいい〜ステキ〜かわいい〜という黄色い声が今尚じゃんじゃか寄せられているのですよ。

ああ熱心なファンにとってこの人は今も変わらず「玉子様」なんだな。歌も歌わず、華奢だった体格は随分と立派になり、加えて髭モジャになっていてもやっぱり「玉子様」。胸の奥の炎を消せないでさまよっているのだな、としみじみするのです。ほら、舟木一夫とかご本人はともかくファンのご婦人方は未だバリバリ現役っぽいじゃないですか。老いてなお新御三家健在的なあの感じ。強い。

話が逸れましたが。

本書は4年半かけて音大を卒業するまでの記録。そして今年出版された「ブルックリンでジャズを耕す 52歳から始めるひとりビジネス」はタイトル通り、アメリカでレーベルを設立してサヴァイブする様が描かれているとのこと。こちらも楽しみに読み進めるとします。

 






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Comment

  1. そう より:

    こんにちは。双子母です。
    花粉の飛散もここ数日でだいぶ減ったようで、かなりテンションが上がっています(^^)/
    5月の連休はどこに連れて行こうか、最近の悩みです。

    大江千里さん懐かしいですね。懐かしいというか、今でも1曲だけ「夏の決心」という曲をiphoneに入れてバリバリ聴いてます。小学生の夏休みに見ていたポンキッキーズで初めて聴いて、めっちゃ楽しい気分になってから、ずーっと聴いてます。なかなかにしつこい性格なんです。笑。
    曲調もいいけど、歌詞もいいんだなぁ。。当時はこの歌詞分かる~!程度でしたが、大人になった今(今年35歳です)、聴くとなんか涙腺が…はぁ、歳取ったなぁ。。。。。

    大江さんには、これからも頑張ってほしいです。いい歳したオッサン(失礼)が新たに挑戦するのを見ると、変に勇気が湧いてきますね。

    • crispy-life より:

      そうさん

      夏休みはやっぱり短い!
      そうさんと私、ひとまわり違うのにポンキッキーズも大江千里も通っているのが不思議ですね。まあ私の子供時代はポンキッキーズじゃなくてポンキッキで、シスターラビッツもじゃかじゃかじゃんけんもなくてペギー葉山でしたけど。そうさんの頃なら、歩いて帰ろうとかの時代でしょうかね。あんなに小さかった大知が立派になって。。。とおばさんホロリですよ。(←当時も見てた)
      確かに、大人になってから改めて掘り返してみると味わいがより深くなるものはありますね。音楽しかり、映画しかり、本しかり。双子ちゃんもこれからそういう記憶をたくさん作っていくんだなあ。。。

      そうさんのコメントでGWが近いことに気づきました。双子ちゃんを伴ってのレジャーは大変なことも多いでしょうが、いっぱい楽しんで下さいね!

  2. ちゅーなー より:

    crispy様

    この方はラジオのイメージでした。

    深夜放送は毎週聞いていましたが、
    (失礼ながら)当時の私に、曲そのものは
    甘味が強く感じられ、正直あまり聞かなかったです。
    深夜放送はとても面白かったです。
    あの頃のアイドルは甘味と辛味が
    バランス良かった高野寛さんや
    鈴木祥子さんでしたね(遠い目)

    ジャズに転向されていたのは知ってましたが、
    この本は知りませんでした。
    120分カセットを駆使して深夜放送を
    エアチェックした頃を思い出しました。

    他の方のコメントでポンキッキはペギー葉山さん
    でしたか。はあ…同世代というか多分ほぼ同学年w
    今度読んでみます。

    諦めなければ、必ず実現する。
    中島らもさんの言葉ですが、本当にそうなんですね。

    • crispy-life より:

      ちゅーなーさん

      そうなんです。私の時代はひらけ!ポンキッキで、オフコースの曲に乗せてペギー葉山が小さなお友達に説法していました。そして動物が観覧車に乗ってぐるぐる回るアニメーションではThree Dog Nightの曲がかかっていました。ああ70年代。そして記憶の側には必ずカセットテープ。TDK-AD。

      当時の大江千里サウンドは極甘ですしあの声ですから、なかなか好き嫌いの別れるところではあったような。でも今改めて聞くと歌詞もそうですが、ピアノがめちゃくちゃいい曲あるんですよねえ。
      この本、詳細なインデックスもついているし、ちょいちょい技術的な記述も出てくるので鍵盤のわかる方ならもっと楽しめるのではないかと思います。

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