あなたのその怒りはどこから。

公開日: : 一人飲み, 生き方と考え方

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ある夜のこと。打ち合わせを兼ねてちょろっと飲んで、一人になってからもまだもう少し飲みたくて、お得意の深夜徘徊。前から存在は確認していたけれど未訪問のままとなっていた店にしゅるりと吸い込まれました。

夜の街を徘徊する。

それなりにボリュームのある食事を出すので1軒でも完結できるし、軽いつまみを取っての0軒目にも、また今回のように〆のバー使いもできて、結構使い勝手がよさそうだね、とメニューを読む。

私が座ったカウンターのすぐ後ろの大きなテーブル席には、中年男性がひとり。連れはトイレにでも行っているのだろうと思っていたらどうやら一人客だったらしく、大声を出して怒り狂っておられる。怖いじゃないか。

怒れる男

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ビクビクしている若い女性店員にオーダーを伝えつつ

「なんか、トラブル?大丈夫?」

と聞くと

「すいません、突然入ってきて勝手に座って怒り出しちゃって」

と小声で耳打ちからの困惑顔。週末深夜の酒場街、少々入り過ぎた人間がなんらかの失態を繰り広げるなんてそう珍しい光景でもありません。

平たく言えば、酔っ払いがクダを巻いている。ただ、それだけのこと。なんとなくこちらに話し掛けている気配が漂うし、巻き込まれそうな距離感でもあるけれど、こういう時はそっとガラス塀を纏って我関せずを決め込むに限る。経験則としてそうわかっているので、引き続きメニューを熟読。ふーん、ワインリストが豊富だねえ。

どうやら酔人の怒り着火点は、座った席で煙草が吸えないのが気に食わんとかそいう些細なことだったようだけど、平常時ならあら残念、じゃあ他行くわ、で収めたことでありましょう。強制連行される直前はもうちょっと何言ってんだかわからなくなっていたので、確実に酩酊状態が引き起こした怒りでしょう。

怒り酒、か。

お騒がせしちゃってすみません、いえいえ、という短いやり取りを先ほどの女性店員と交わした後で、ふと脳裏に浮かんだのは、遠い昔の怒り酒の思い出でした。

あなたのその怒りはどこから

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あれは15年ほど前のこと。

深夜に友人らと西麻布だかどこかだかのバーで飲んでいると、結構いい歳のおじさんが店員さんにさんざ怒りをぶちまけておられました。結構いい歳、って今考えたら恐らく40に手が届くかどうかってとこで、まあちゃんといい歳ではあるんだけど、結構若い人だったよな、とも思う。今なら。

このおじさんの怒り着火点はなんだったのか、もうすっかり忘れてしまったけれど、前述の男性とそう変わらない程度には些細なことだった、はず。思い出せないくらいだから。

あーもう、こっち話してんのにごちゃごちゃうるさいよ。という平凡な感情しか持たなかった私に対して、同席していた友人が

「おじさん、かわいそう」

と呟いて、驚いた記憶。

「絶対もう今、恥ずかしいよ。やっちゃったなーってわかってるのに引っ込みつかなくなっちゃって、仕方なく怒ってるパターンだよ、あれ」

ええ、そうなの?

いや、本人に聞いたわけじゃないから真実はわからないけど、引っ込みつかなくなって仕方なく怒鳴り続けるという感覚が皆目理解できない私には絶対に不可能な状況解析だわ、と心底びっくりしました。同じ状況を同じ場所から見ているというのに、全然違う感想を持つ私たち。

ヒントが思わぬ場所から投げ込まれてくる話。

なんで彼女にはそう見えたのだろうか。彼女も似た経験をしたからだろうか。私は怒るのも怒られるのも嫌いで、ましてやホントはもうどうでもいいんだけど仕方なく怒り続けるような演技力も持ち合わせていないからか、それとも単なる想像力の乏しさゆえか。

「おじさん、かわいそう」

もしかしたら今宵の怒れる男も、何に対して腹が立ってるのか自分でももうわかってないのかもしれないな。などと、考えてもどうしようもないことを考えながら飲みました。

見知らぬ怒りとは距離を置きたいのは山々だけど、怒れる男が連行される間、店の扉が大きく解放されていて、風が入って気持ちよかった。

機嫌よく過ごす方法、リストアップで逆算する。

ところで酒を飲んだら本心が出るとか、普段あれこれ我慢してる人ほど爆発するのだ、なんてのはよく聞く話ですね。でも、その説はいまひとつ納得できない。だって、自分はそうならないから。別に思ってもないこととか考えもしなかった話が口をついて出てきたりするから。

それよりも、通常時は辛うじて纏っているガラス壁ならぬ見えないバリア(社会生活を営むために必要なもの)に酒のせいでヒビが入り、隙間から妖怪か何かが入り込んできて魂を乗っ取るのだ説の方が、なんとなく理解できるような気がするのです。もちろん、今私が勝手に作った説です。

 




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Comment

  1. ちゅーなー より:

    crispy様

    個人相手の客商売ゆえ、怒り狂う方を
    対応するのはかなり有ります。
    しかもシラフなんですよね。
    私個人の経験ですが、引っ込み付かない怒りは
    シラフの場合、まずありません。ガチです。

    まぁ今だに相手にするのは気分悪いですが
    冷静に対応出来るようにはなりました(苦笑)
    今回の飲み屋のオッサンみたいなケースは
    アトラクションだな、とすら思えますww
    とは言えとんだとばっちり、お察しいたします。
    最後に体験した名言を。

    3位「お詫びは三倍返しだろぅ!」
    2位「夜道に気をつけるんだな!」
    1位「お前はキ◯ガイだ!!!!」

    • crispy-life より:

      ちゅーなーさん

      確かに、直接お客さんと接する仕事だといろんな怒りに触れてしまうものですね。私も会社員時代にお門違い過ぎるクレームで

      「お前じゃ話にならん、男を出せ!」

      と言われて唖然としたことがあります。えーと、ここの責任者私なんですけど、私の部下との折衝をご所望で? とは言いませんでしたが、世の中いろんな人がいますね。

      しかしちゅーなーさんが浴びた名言はドラマの中でしか見たことありません。こんなセリフをリアル社会で使う人がいるなんて、みんな結構芝居がかってるんだなあとか変なことに感心してしまいました。いや、もちろん言われたくはないですけどもw

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