白のままでは生きられない 母衣への回帰 志村ふくみ展。東京散歩・世田谷区。
世田谷散歩の続きです。
関連 いらか道を砧公園、世田谷美術館へ。 東京散歩・世田谷区
用賀駅から砧公園内にある世田谷美術館までは20分程度。
今回この時期に世田谷を選んだのは世田谷美術館の展示が目的でした。
母衣への回帰 志村ふくみ展
現在世田谷美術館で開催中の染織家・志村ふくみさんの展覧会。
参考 志村ふくみ――母衣(ぼろ)への回帰(世田谷美術館)
京都国立近代美術館(2016年2月2日‐3月21日)、沖縄県立博物館・美術館(2016年4月12日‐5月29日)に続く巡回展の最終会場となる本展は、東京において、志村ふくみの作品が初めて本格的に紹介される機会となります。代表作を中心に、初期の作品から最新作までを一堂に展示することで、60年におよぶ創作の歩みを紹介するとともに、志村ふくみの魅力とその芸術の核心に迫ります。
植物染料で染めた糸から生み出される驚くほど鮮やかな紬織の着物たち。浴衣すらまともに着られない私ですが、実際にこの目で作品を見る機会をとても楽しみにしておりました。
自然由来の染料は光に弱いとのことで、会場内の照明はかなり落とされていました。それでもはっきりと感じられる大地の色たちの力強さ。紬織にはてんで疎くただただため息をつくばかりの私が目に余ったのか、側で見ておられたご婦人が
「ほらこれ、『瓶覗』ってどういうことかわかる?こっちは玉ねぎって書いてあるけど、普通はこういう発色にはならないのよ」
などとあれこれ説明して下さいました。かなりお詳しそうだったのでおそらく染織をされている方なのでしょうか。単に誰かと感想を共有したかっただけかもしれませんが。
展示物の写真はないので作品はサイトでご覧いただくとして。
参考 作品(しむらのいろ)
志村ふくみさんは染織家としてだけでなく随筆家としても多くの作品を手がけられているのですが、初期の作品に添えられた最初の作品が生まれた経緯について書かれた言葉が強く印象に残りました。
専門家に師事して学んだわけでもなく、経験も浅く、潤沢な資材も予算もない状態での工芸展への出品。人前に出せる作品を作るまでには十年修行しなくてはと反対されるお母さまの言葉も振り切り、どうしてもやらねばならないとの情熱だけで取り憑かれたように織り上げた初めての作品。何かに突き動かされる瞬間の温度はいかばかりの熱さだったのだろうかとどこか羨ましい気持ちで想像せずにはいられません。その時の情熱とは種類は違うかもしれないけれど、未だ熱い気持ちを持って仕事に取り組んでおられることが志村さんの「色」に表現されているようです。
これは著書「一色一生」にも書かれているのですが、志村さんがいちばん面白いと感じているのは糸を紡ぎ染める行程であるというのがなんだか興味深い。作品は最終的には着物という形で表現されているけれど、この方は草木を煮出した染料を真っ白な糸に写し取るその神秘的な行為と自然の色にただただ魅せられたのでしょうか。
幼い頃に養女に出され、自身もまた幼い娘たちと離れて暮らす経験をし、子供を引き取るためには工芸の道など選ばずに事務員なりの仕事について堅実に生きるべきだと周りから忠告されても断ち切れなかった色への情熱。妻として母としての立場を考え織物の道を断念したお母様から多くを学び、そして現在は娘である洋子さんと共に「しむらのいろ」を作る。女三代、糸と結びついた人生を辿るのは不思議でもあり宿命でもあるような。
現代とは異なり、女性がやりたいことを自由に選ぶのは難しかった時代。それでも諦めきれない熱い想い。人間は白のままでは生きられない。すべては情熱、情熱か。
人間国宝の作品や生き様から己を省みるなど恐れ多いも甚だしいのですが、単なる美しい作品の鑑賞以上のものを感じ取りまたまた渾々と考える。
情熱の色の世界に触れた後は、外の景色がなんだか鮮やかに見えたのでした。
ああ、世界はこうして美しい色で溢れている、なんてね。単純だなあ。
そう、単純なんですよ、私。すぐに影響されるし感化される。だからこそ、普段から目にするもの、手に触れるものには邪気を寄せ付けないようにしたいよね。
玉川高島屋でお買いもの
世田谷美術館の側には売店があったのでビールでも飲みたいところだったのですが後があったのでぐっとこらえて二子玉川方面へ歩く。
途中気になった店に寄り道なぞしつつ。
本日の最終地点、玉川高島屋に到着。
今回の目的地は世田谷美術館だったので高島屋はお散歩ついで、ではあるのだけれど買いたいものがあったのです。
それはまつのはこんぶ。
近いうちに世田谷散歩に行くからその時に調達しようそうしようと決めていたので長らく切らしておりました。いや別にここまで引っ張らずに通販で買えばよかったんだけども。これでまた晩酌メニューに塩昆布を使えるわ、うふふ。
と、結局最後は花より団子状態になるのであった。
無事に目的を果たして二子玉川駅到着。なんだかんだでよく歩いたなあ、いやいや、散歩日和でございました。趣味らしい趣味を持たない私にとって、近隣散歩や異国への旅、そして芸術や音楽、読書は酒とつまみ以外の栄養素となるのであります。
1年がかりの東京散歩、寒くなる前にファイナルを迎えそうです。
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