見習うべきは、ていねいな暮らしなんかじゃない。

公開日: : 最終更新日:2017/10/26 ミニマルライフ, 世界の音楽と芸術, 生き方と考え方

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「ていねいな暮らし」なる表現がものすごく苦手なのは、自分がその対極に位置する人間だからというだけでなく、その言葉の使われ方に違和感があるからだと思う。

これは単に自分がそう感じてしまっているだけのことなんだけど、やけに薄っぺらい表現だよなあと。ほっこり、とか言ってざぶざぶお手製ハーブティー飲んで梅しごとやらに明け暮れるのがていねいなのか?と毒づいてしまいたくなるこの感じは一体。単なるいいがかりでしょうか。

そんな屁理屈をこねてはみるものの、日々の暮らしとがっぷり四つに組んでいる人のライフスタイルを否定するわけではありません。

それとこれとは話が別。




人生フルーツ

以前から気になっていた作品をようやく観てきました。

関連 究極のミニマリストがあまりにもしんどくて哀しい。

って、あれから半年以上経ってるし、今更感満載ですが。

建築家の津端修一さんと、その妻英子さんの暮らしぶりを綴ったドキュメンタリー、人生フルーツ。(※以下少々ネタバレ含みます※)

関連 作品紹介(人生フルーツ)

むかし、ある建築家が言いました。
家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない。

これ、個人的モヤっとワードのていねいな暮らしカテゴリに入る作品なのかもしれませんが、そこにはもっと地に足のついた泥臭さがありました。

自身が手がけたニュータウンの片隅に家を立て、一から雑木林を作り、手間暇かけて育てた70種の野菜と50種の果実を、これまた手間暇かけて料理する。なにやら浮世離れとも思える生活を送っている90歳と86歳の老夫婦。

何年も会っていない友人らとのコミュニケーションを絶やさないために毎日手書きの便りを書き、孫がドールハウスが欲しいといえばプラスチック製品で遊ばせたくないと一から設計し、全て手作りする。効率やお金より、心地よさと時間を優先する暮らしを選んだそのきっかけは、ニュータウン計画が当初修一さんが思い描いていたものとは全く別の方向に進んでしまったことでした。

時代は高度経済成長期。理想と現実、個人の思いと時代のギャップから生まれる葛藤と失望。当時36歳と若かった修一さんが苦しんだであろうことは想像に難くない。そして、仕事の場面で実現できなかった理想の住まいを自分の家で叶えるという発想と行動力は痛快ですらあります。

でも、これを「ていねいな暮らし」とか「日本人が忘れかけていた本当の豊かさ」などと表現するのはちょっと短絡的かなあと。

見習うべきは、ていねいな暮らしじゃない

自然と共存するとか、なんでもかんでもお金で解決せずに自分でやってみるといった取り組みには大きな意味があるし、理想的であるとも思う。でも、修一さんのかつての同僚の方がぽつりとつぶやいた

「仕事で挫折した後の方向がなんでスローライフなのか、もっと他の道を向くこともできたんじゃないか」

には妙に納得したし、ふたりの暮らしが日本人にとっての正解だとも思わない。

「女は寝るとき以外は動いてなきゃダメ」

と教えられて育ち、そのまま素直に実践した英子さんは幸せな結婚生活を送ったけれど、全ての女性がそれに従えるはずもなく、そして従う必要もない。理想を実現する手段は人それぞれであり、修一さんの理想とは程遠い仕上がりとなったあの無機質な大規模団地の中でも、ささやかな幸せを噛み締め暮らした家族はたくさんいたはずなのだから。

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老いてなお仲睦まじく、体力作りを兼ねた農作業に勤しみ、愛情たっぷりの手料理を毎日楽しめる丈夫な胃腸を持つふたり。こんな理想的な老後の暮らしを覗くと、そりゃ私だって旦那が東大卒のエリート建築士だったら文句言わずに家事もやるわとか、300坪の土地買って理想の家を建てるとか普通の人はできませんから、みたいなやっかみのひとつも出てきそう。

確かに、ふたりの暮らしは理想的とはいえ誰しもが再現できるレベルのものではないけれど、羨むべきは恵まれた条件とかその暮らしぶり自体ではなく「わかっている」ことではないか。

「もう90歳なのだから、自分の時間を大切にしたい」

と言いつつも、「最後の仕事」のオファーに対し、素早くスケッチブックを広げたという修一さんの姿が、わかっている人のそれで眩しい。

真似したくとも手の届かないライフスタイルと自分の現状を比べてため息をつくのではなく、自分のやりたいこととか哲学がはっきりとわかっていること、そしてそれを実現できる想像力と創造力を養う術こそを見習いたいと思うのです。

人生はだんだん美しくなる、のなら

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表現の仕方はこの際おいといて、ていねいな暮らしに憧れる気持ちはきっと誰しもが少なからず持っているし、お金より時間を大切にしたい人だって多い。

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でも、憧れのライフスタイルを実践することばかりにこだわって疲れてしまっては本末転倒、手作りの梅干しだけが幸せの象徴でもない。家族の時間を大切にするための手抜きなんてのは、むしろ愛すべき行為でしょう。

そして、キッチンガーデンつきの30畳の家が手に入らなくても、舞台が無機質な団地の中であっても、そこを宝石箱にする方法は、多分ある。

ただ、自分のやりたいことと、心地よさと、幸せの形が同じ方向を向いているのはとても大切で、これがなかなか難しい。大人の女性は一生もののジュエリーを持つべきとか、ものを捨ててすっきり暮らせば幸せになれるらしいとか、尤もらしい情報にフラフラ惑わされてばかりの我々現代人には難しい。

ミニマリストの持たない暮らし

自分にとっての心地よさは何か、行くべき道はどれかが、わかっている。自分の信じた道で時間をコツコツ積み重ねていけたなら、人生は長くなればなるほど美しくなるのかもしれないし、長生きも悪くはないのかな。ていねいな暮らしはおろか、コツコツしたやり方が苦手だし、長生きすることにも全然興味がない私でも、少しだけそう思えたのでした。

心の準備ができていない分、残された家族は気持ちを整えるのが難しいけれど、お昼寝してそのままさよなら、もまた美しい。

 






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Comment

  1. ちゅーなー より:

    crjspy様

    今回の映画、1番ピクッと来たのは修一さん。
    私の名前も修一です。
    そこかよ!とツッこまれそうですが、
    同じ修一が超エリートの上、50年前に
    現代先取りのような暮らしを始めたというのが、
    クラクラきてます。

    東京出身者が地方移住してみたら、
    ていねいな~スローライフな~では済まされない
    生臭い部分も味わう訳でして、移住してもすぐ
    地元に帰ってしまう人も多いです。
    私は転勤ゆえ簡単に帰れないですが笑。

    理想と現実、なかなか難しいものの…
    わかった上で飲み込んで消化する力強さが
    心地良い暮らしになるのでしょうか。

    • crispy-life より:

      ちゅーなーさん

      いや、修一さんこんばんは、っていいんですかそんなさらっと。いや、別にいいんですけどもびっくりしました。

      自然と共生とか自給自足って相当泥臭い作業が多いから、軽い憧れだけでクリアできるものではないですよね。私もいずれはそんな生活がしてみたいなと考えるものの、都会生まれの都会育ちで体力もないときているのであっさり挫折する側な気がします。やってみないことにはわからないけれど。

      理想を実現できないからと全てを諦めることなく、自分の置かれた立場、できる範囲での最善は何かと模索し続ける貪欲さ、そして実行できる強さは持っていたいです。

  2. ASA より:

    酔って書いたコメントを読み返して赤面、
    ということを繰り返したため、コメント自粛しておりました。

    映画、ご覧になったんですね。
    小食化が加速する私に、あの食べっぷりはまぶしかった…
    あの映画のおかげで、マメにモノを作る人でありたかった自分に訣別できました。
    「こうありたい」の呪いが解け、今は心身が身軽です。

    「地球家族」、実家の本棚から奪って蔵書にしてました。
    引っ越し前に売ったような、売ってないような…
    大半の本の梱包がそのままで、中身が謎です。

    • crispy-life より:

      ASAさん

      コメントで言及していただいたおかげで観に行くことができました、ありがとうございます!って、相当時間が経ってしまいましたが。

      確かにあの食べっぷりは眩しく、逞しかったですね。お二人のような素敵なポリシーも哲学もなさそうだけれど、食べっぷりに関しては我が両親も負けていないななどと思ったり。

      ところであなたはわたしですか?
      数年間嬉々として使っていたTwitterから距離を置いたのは、翌朝身に覚えのないTweetを見るのが恥ずかしすぎたからであります。もうASAさんの赤面にシンパシーを感じすぎて無駄に酒が進むんですがどうしましょう。

      いつも理路整然としたコメントを頂戴するので、酒が入っているとは思えませんがしかし、酒飲みの聖地のようなブログでありたいと思っておりますので(大げさ)いつでも酔っ払いコメントお待ちしております。

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