モノがなく、愛もない部屋で。
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ミニマルライフ
親密な付き合いにある友人はさほど多くないので、頻繁に人の家に出入りする機会はない。でも、皆無ではない。そして、ふと思う。
人の家の匂いを感じなくなったのはいつからだっけ?
子供の頃はよそのお宅に遊びに行く度に察知していた、あの、知らない匂い。別に臭いとかいい匂いとかでなく、単にあの子の家の匂い、というか、自分の家とは確実に違うアレ。
「ひとんちの匂い」って、そう悪いものでもなかったな。
ひとんちの匂い
慣れたのではないか説。
いい匂いも、嫌な臭いも、あらゆるパターンのにおいをそこそこ嗅いできたので、他人の家の個性的な香りにはもはや動じなくなった。
消臭剤がすごい説。
ファブリーズ的なものとか、いつまでも香りが続く柔軟剤とか、そういうものが一般化したゆえに、各家庭の生活臭自体が絶滅状態にある。
多分どちらも正解で、どちらも間違いでしょう。しかしあの柔軟剤のわざとらしいフローラルさってのは文字通りハナにつきますね。柔軟剤とか、too much香水あたりはひとんちの生活臭よりよっぽど鼻もげ案件じゃないかと思ってしまう。それなのに、同じ人工臭でも若い女の子からただよう安っぽいコロンの香りはやけに甘酸っぱく可愛らしく感じてしまうのだから、まったく勝手なもんですよ。
ええと、とにかく、ここのところひとんちの匂いを嗅いでいないな、と。
人様の部屋をいやらしく思い出す
みんな、キレイにしてるなあ。と、人のお宅にお邪魔する度にひどく感心してしまう。
もちろんそんなにじろじろ観察したりはしないけれど、生まれて間もない赤子がいたり、わんぱくな小学生男子がいたり、猫がいたりするせいで、部屋に置いてあるものの数はとても多いのに、それらは驚くほど整然としていて、かといってよそよそしくはなく、美しき生活感がある。
もちろん、誰しも来客前にはそれなりに部屋を片付けるだろうけど、そういうやっつけ感ってどこかに出るじゃないですか。それがないってのは、普段からちゃんとしてるってことでしょう。
先日も一人暮らしの友人宅に遊びに行って、キッチンの引き出しの中見てびっくりしたもんね。ありとあらゆるキッチンツールが揃っているのに、めちゃくちゃきちんと整理整頓されてた。そして、汚れてもいなかった。
「めんどくさいから普段あんまり料理しないんだよねー」
なんて言っていたけれど、あれは全く料理しない人間のキッチンではない。なんか、みんなすごいよ。
などと人様の部屋をいやらしく思い出しながら、自室の掃除をする。もののなさゆえにひどい散らかり方をすることはないけれど、なんかこう、相変わらず、この部屋には温度がないんだな。
ものがなく、愛のない部屋で
片付けるのが苦手だし、ゴテゴテ飾るのも好きじゃない。でも、のっぺらぼうすぎるのも味気ない。
センスのなさはこの際大目に見るとして(ダメだけど)、結局なんだろう。何が私の部屋には足りていないんだろうか。アロマオイルを含ませたぞうきんで床を撫でながらしばし考える。
愛だ。愛がないんだわ。
人や動物の存在が醸し出すそれとは別に、一人暮らしの友人宅でも、例えばファッションとか、植物とか、インテリアとか、本とか、音楽とか、アイドルとか、何らかへの愛や情が感じられて、それがその部屋の温度となっていた。
本も音楽も、そのほとんどを既にデジタル化してしまった私の部屋では、対象への愛を目で感じることはできない。これも部屋に情が薄い理由のひとつでしょうか。
アトムからビットへを加速した結果、残ったのはただ味気ない部屋でした。などという話ではなく、自分の生活スタイルに合致しているのでこれはこれでいいんだけど、その他の面でもとにかく情が薄すぎやしないか。何をもってこの人気ない表情もない薄情な部屋を我が家たらしめるのか。
まあ自分の部屋に人の影が感じられないのは、我が家にも存在していたであろうひとんちの匂いを自分では感じられなかったのと同じ原理かもしれないけれど。で、別に我が家を我が家たらしめる必要性も、特にはないんだけど。
収納術に興味もなければセンスもない、だから他に選択肢はない。
生活感が滲み出る部屋はイヤ。それにしてものっぺらぼうすぎて全てにおいて愛が足りないのもダメ。ああ、なんというワガママさでありましょうか。さらに人の気配が感じられる唯一の要因が酒瓶というのもいかがなものか。誰も遊びにこないから指摘されないけど、消臭剤の類は一切使っていない我が家の匂いはもしかしたら酒なのか。オリエンタルエッセンスの香りでは誤魔化しきれないほどに。
などと、ひとんちにお邪魔した後は妙なこと考えてしまうのであった。そもそも、部屋とか暮らしに大したこだわりがないからこそ、こうなっているのにね。
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Comment
んーそうでしょうか?
部屋を見たことはございませんけど、ここに愛があるのに、部屋にない、なんてぇこたあないでしょ
kyokoさん
愛に溢れたkyokoさんのコメントに震えます。ここに少なからず愛が見え隠れするのであれば、そのうち部屋にも情らしきものが現れるかもしれない、という希望を見る夜。