勝ち組兄さん家の電気料金はひと月約800円。
「彼こそが真の勝ち組だよね」
と、いつも仲間内で話題になる兄さんがいます。
勝ち組、なんて言い草はいささか下品なのは重々承知の上ですが、敢えての勝ち組呼ばわり。
人生は勝つとか負けるなどという単純な言葉で表現できるものではありません。
けれど、彼の場合は間違いなく「勝利」していると感じてしまうのです。
スタイルを意識しないスタイル
「勝ち組」なんて言うと社会的な成功を成し遂げたとか巨万の富を築いたとか莫大な資産がある悠々自適の暮らし、なんてイメージが浮かびますが、兄さんはちょっと違います。
私たちが彼を勝ち組と表現するのは、限りある人生の時間のほとんどを本当にやりたいことに使っているから。
彼からは時々電気料金使用料金明細書の写真が送られてきます。別にストイックな暮らしをしているわけでも記録にチャレンジしているわけでもなさそうですが、兄さんの明細は常に数百円。それもそのはず、兄さんの家にはテレビやエアコンはおろか、冷蔵庫すらありません。
「家は寝るところ」
と決めている兄さん、自宅では一切食事をしないので家にある食料は夏場でも常にペットボトル1本だけなのだとか。
なんて書くと清貧志向かミニマリストか?なんて思ってしまいますが、全然そうではなく。
彼はなんらかの思想やスタイルを意識して今の生活を作り上げたのではなく、自分のしたいことを追求した結果として「自分なりの最小限」で暮らすライフスタイルが出来上がった、ただそれだけなのです。
いや、別にそんなこともいちいち考えていないように見えるほどに自然に生きています。
好きなことを追求する生き方
兄さんは酒と食、本と音楽と映画、そしてスポーツをこよなく愛する男。彼の人生の時間はほぼこれらに充てられていると言っても過言ではありません。
毎日毎日そんなに飲み食いして大丈夫?という量の飲食をこなし、読書量はハンパなく、いったい1日に何本見てるのかと不思議になるほど映画に詳しい。いやいや、そんな生活では健康面が不安、なんて思ってしまうのですが、毎朝ジムに一番乗りで通ってみっちり体を鍛えており、お腹なんて一切出ていないパーフェクトボディを維持しています。
もちろん、きちんと仕事もしています。週休1日の仕事をしながらこの生活。
超人か。
逆にそれ以外のさほど興味がない、大切だとは思わない分野に関してはバッサリと切り捨てています。洋服は季節ごとにほぼ一つのスタイルで通しているし、電車に乗るのが面倒だからと遠出はほとんどしない、そして客商売だというのにとりあえずの社交は一切しない。
見方によってはバランスの悪い生き方かもしれませんが、自分に必要なもの、自分が喜ぶ要素がハッキリとしているからこそ実現できるシンプルな暮らし。有名企業に勤めているとか、名前が売れているとか、年収がいくらだなんて全然無関係のその潔い割り切りぶりに、私たちは憧れてしまうのです。
本当の望みを見極める力
兄さんほどではないにしても、本当は誰だって好きなことを好きなだけできる人生を望んでいるはず。別に興味もないのに一応流行くらいは押さえとかないとね、仕事に支障が出るからさ、なんて言い訳しながらつまらないことに時間を費やしている暇なんてないはずなのです。
けれど、近しい人がやっていることや持っているモノがなんとなく気になってしまう。少ない洋服をセンスよく着回したい、なんて思っていても毎シーズン新作を買い揃える同僚がいたらなんとなく引け目を感じてしまったり、別に興味はないけど年齢的にそろそろいい時計のひとつは持っておくべきかな、なんて考えたり。
こうして言葉にすればただの優柔不断のダメ人間みたいに思えますが、これって至極普通のこと。自分のやりたいこと、欲しいものがハッキリ分かっている人って意外と少ないのではないかと思うのです。
本当に自分が欲していることと、外側からの情報や刺激に左右されて欲しいと感違いしてしまっていること。両者を見極めるのはもの凄く難しい。
心から望む人生を謳歌する方法
大切なのはいい車に乗ることでもブランドバッグを持つことでもなく、そして服を捨てることでも携帯を手放すことでも寝袋で寝ることでもない。
自分は一体どんな人生を歩みたいのかを知る。それが俗に「幸せ」などというぼんやりした言葉で表現される何か、なのではないでしょうか。
人の考え方は100人いれば100通り。誰しもが幸せになれる方法なんてあるはずもないのだけれど、多かれ少なかれ誰もが幸せを望んでいる。持ち物の数が多ければ誰もが満足できるのではなく、少なくすれば満ち足りるわけでもなく。何が自分にとって大切なことなのかがハッキリわかっている人こそが、人生を思う存分謳歌できるのだろうな、と、兄さんを見ていると思うのです。
仕事をして、飯を食い、酒を飲み、芸術に溺れ、体を鍛える毎日。
彼の1日は実は24時間以上あるんじゃないだろうかと疑いたくなるほど、(彼の判断する)無駄を削ぎ落として好きなことを好きなだけやって楽しむ。
さらに兄さんを尊敬する要素は独自のものさしを持っているところ。彼は一流店のにぎりもコンビニで売っているちょっとしたツマミでも、自身の琴線に触れたものに関しては全く同じ土俵で
「旨い」
と言える人なのです。本物しか口にしないとグルメを気取るでもなく、安さを追求するB級信者でもない。その判断は常に自分が好きかどうか、だけ。
誰と比べるでもなく、情報に踊らされることもなく、ただ自分の感覚を信じられる強さ。
そんなところも、私たちが彼を人生の勝者であると感じずにはいられない要素なのです。
さて、兄さんにここまで理屈っぽく意見をぶつけたことはありませんが、
「兄さんの生き方は理想的だよね」
と言うと兄さんはいつも
「はあ?」
と笑うだけ。
きっと、彼の生き方を私たちが羨んでいるなどとは全く考えていないのでしょう。けれどただただ毎日を、人生を楽しんでいるように見えるそのスタイルに、煩悩まみれの私はやっぱり憧れてしまう。
40を過ぎてようやく少しづつ自分の人生と真摯に向き合えるようにはなったけれど、兄さんの域に達するにはまだまだだなあと感じます。
そして本や雑誌の中じゃなくて、身近に憧れの人がいるのはなんだかラッキーだな、とも思うのでした。
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Comment
毎日楽しく拝見しています!
crispyさんの料理のレシピもよだれもので、旬の魚やお野菜を使われてるので見てるとどうしようもなく食べたくなってきて、最近はさつまいもと豚肉の生姜煮、秋刀魚の梅煮を作りました!(そして困るほどお酒がすすみますヨ)
ところで、自分の好きなことが見極められている人ってほんとうに素敵ですね。どうしたら自分が心から望んでいることがわかるのでしょうか。私も雑多な情報や広告に踊らされてる一人です。ちょっとテレビや雑誌、ネットサーフィンなんかは遮断したほうがいいのかな?
バジルさん
コメントありがとうございます!
>ちょっとテレビや雑誌、ネットサーフィンなんかは遮断したほうがいいのかな?
これ、非常に難しいところですよね。情報遮断して雑音から遠ざかりたいような、でも無駄な時間も大切だったり、ひょんなところに素敵な出会いが転がっている可能性もあったり。
いいお題をいただいたので、この辺りもまた考えてみたいと思います。
そして世界のどこかで同じ料理で呑んでいる人がおられると思うと無性に嬉しいです!
今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。