ささやか過ぎる平凡な人生は退屈か。
先月バンコクからフィリピンへのフライトの際にマニラ空港で8時間のトランジットがありました。
8時間。8 hours。
結構長い。
アンタがその便選んだんだから仕方ないんじゃない?って思うでしょ。
選んでないから。チケット取った数日後に「ごめんね、時間変更になったからあとはヨロシク」っていうメールがきただけだから。
使用するのがターミナル3だったのは幸いでしたが、さて早朝から夕方まで、どうやって過ごそうかと考えました。
頼みの綱のマッサージ店、使えず
実は往路でターミナル3にあるマッサージ店の「マッサージ+仮眠プラン」なるものをチェックしていました。日本円で1,800円か。ちょっと休みたいし、これはちょうどいいかもね、と思いマニラに着いてすぐに行ってみるも…残念。仮眠プランの提供は深夜から朝6時までとのこと。6時過ぎに到着した私は使えませんでした。
仕方なくマッサージ店の隣にあるレストランをチェックするとWifiと電源あり、おまけにソファ席、ブレックファストメニューはコーヒーお代わり自由となかなかの好条件。結局ここでブログを書いたり予め購入しておいたKindle本読んだりしながら朝の数時間を過ごしました。計算外だったのはお代わりできるコーヒーがあまりにもマズくて1杯すら飲み干せなかったこと。なんというか、会社のコーヒーメーカーで入れたコーヒーをそのまま一昼夜煮詰めたみたいな味。残念。
で、その後はうろうろ散歩して、早めに搭乗口に移動してビール呑んで…となんだかんだ意外に退屈することなく8時間が過ぎたのでした。
うーん、私ってWifiさえあればどうにかこうにか長時間やり過ごすことができるのだな、と改めて思った次第。
移動は好きだけどせかせかすることは好まず、妄想力も豊かな私はそもそもあまり退屈しません。
だけど同じ状況でも何かしてないと耐えられない!という人もいるでしょう。
人生を退屈と考えるか否かも人によりけり、か。
などと考えていたらふと母のことを思い出しました。
平凡な人生は退屈か
私の母はホントに何もしない人。
趣味もなく、友達もおらず、さほど外出も好まず、せいぜい日々の買出しにスーパーに行くついでにコーヒーを飲みに行く程度の毎日代わり映えしない生活を送っています。
専業主婦の母は昔からずっとそんな調子で、家事をしている以外の時間は部屋で寝ているかテレビを見ているかのどちらかでした。
なぜこの人は時間がたっぷりあるのにもっと人生を楽しもうとしないんだろう。
若い頃の私はあまりにも面白みのない母の生き方にどこかイライラしていました。
「時間が有り余ってるんだからさ、ボーっとしてないでもっとこう生産的なことすれば?」
何度もそう詰め寄る私に母は決まって
「だって、何をするにもお金がかかるじゃない!」
と少々怒りながら返すのがお決まりのパターン。
旅行に行きたいけどお金がない、夢は自分で店を出すことだったけどお金がなくてできなかった、周りのみんなはお金持ちなので付き合うにもお金がかかる、というのが母の言い分。とにかく「お金がない」が口癖でした。
お金がなければやりたいことはできないのか。そんな人生だけは送りたくない。
ならばガンガン仕事して、バリバリ稼いで、やりたいことは何でもできるようにならなくちゃ。
私がガツガツ働く道を選んだのは母の影響も大きかったように思います。
まわりと比べると、自分の願望が見えなくなる
さて、そんな母ですが、ここ数年で
「今がいちばん幸せ」
と言うようになりました。
別に突然裕福になったわけではありません。むしろ昔よりも生活は慎ましくなっています。ただ、母は70を過ぎてようやく自分の望む生き方を受け入れられたのではないかと思うのです。
若い頃の母は
「あの人みたいにできないのは自分にお金がないから」
「仕事ができないのは自分に才能がないから」
と常に他人と自分を比べては現状に不平不満をこぼし、
「そんな自分は不幸でかわいそうだ」
と思い込んでいた節があります。そして私はそんな不満だらけの母の愚痴を聞かされるのが苦痛でした。
でも、実は母が本当にしたかったことは
「毎日家でのんびりテレビでも見て過ごすこと」
だったのだ、と最近になってわかったのです。そう、母は実はずっとやりたいことをやっていたのだ、と。
毎日のんびり家事をして、家をきれいに整えて、料理はあんまり好きじゃないけどまあそれなりにがんばって、残った時間はテレビを見たり昼寝をして家で気ままにのんびりと過ごすのが幸せ。
けれど、そんな平凡過ぎる生活は決して人に自慢できるものではない。娘からは生産性がないだの時間の無駄遣いだのと罵られ、周りは趣味や仕事に忙しく自分よりも活き活きしているように見える。だからなんだか素直には楽しめない。
実は自分の望む生活が実現できているのにも関わらず、
「本当はもっと別にしたいことがあるけれど、それが叶わない不幸な自分」
をずっと演じ続けたため、自分でもそう思い込んでしまっていただけなのではないか。それが今になってようやくささやか過ぎる毎日だとしても誰に恥じることもなくただ楽しめばいいんだ、と認めることができたのではないか。
そんな風に感じるのです。
これは歳を取って達観したとか足るを知るとかいう類の話ではありません。
母に限らず人間は自分の本来の望みより、世間的によしとされること、羨望の眼差しを浴びることに照準を合わせてしまうようなところが少なからずあるのではないでしょうか。
人生の良し悪しは他人が計るものではない
本当は家でのんびりするのが好きだけど、あちこち出歩いているほうが人生楽しんでいるように見えるかもとか、ショートカットのほうが自分らしいけど男受け考えたら伸ばしたほうがいいよね、とか、ブランド物なんて実はそんなに興味ないけど持ってたらなんかおしゃれっぽいかも、とか。
もちろん「家でワイドショーを見るのが趣味」と言う人を正直つまらない人間だなと感じてしまうことはあるでしょう。でも、本人がそれを心底楽しんでいるのなら他人がとやかくいうことではない。例え家族であろうと他者の人生を高尚だとか下衆だとか勝手に判断すべきではないしまた、そんな判断をする他人の顔色を伺う必要などないのです。
暮らしそのものは変わっていないというのに、常に自分の人生に対する不満しか口にしなかった母が一切愚痴をこぼさなくなり、その上「とても幸せ」などと言う。そしてそれは私や家族にとっても嬉しい変化であって。
幸せとは結局環境が整ってこそ「なれる」ものではなく、実はいつだって心構え次第で「感じる」ことができるもの、なのか…?
などと遠くフィリピンの空港でサンミゲルを呑みながらぐるぐると考えていた私なのでした。
テレビ命の母とはベクトルが全く違うものの、たっぷりの時間を退屈することなく過ごせる特技は、案外母から受け継いだものなのかもしれません。
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Comment
お母様のお話、ほんとにそう思います!
良いお話をありがとうございます。
Yuko Friedmanさん
コメントありがとうございます。
母が変わった、というのもあるでしょうが、私も変わったんでしょうね。以前は「もっとこうすべき」なんて自分の価値観を家族に押し付けていたので。家族と言えども、人の人生は人のもの。おかげさまで現在の家族仲はとても良好です。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
はじめまして。
とても心に突き刺さる記事でした。
世間一般的によいとされていることと
今の自分のギャップを感じては、
これでいいのだろうか、と思うことが時々ありましたが、
お母様のように「今が一番しあわせ」と素直に認めたいと思いました。
ありがとうございました。
Keiさん
コメントありがとうございます。
もっと楽しい人生を送るぞ!と努力するのは素晴らしいことですが、決して悪くない現状を嘆いてばかりいるのも勿体無いですよね。
理想は「今も幸せだしこれからもっとよくできる」という根拠のない自信を持ち続けることなのかもしれません。
今後ともよろしくお願いいたします。