白シャツ一枚 装いプレイの可能性。
極端な話、仕事がらみの旅行じゃなければ洋服なんてラクなものが一番だし、枚数だって少なくていい。
夏ならTシャツ数枚にデニムにサンダル、冬なら足元はスニーカーかブーツでアウターはダウン、でほぼ事足りるでしょう。実際その程度の軽装で旅を続けている人も少なくありません。もちろん私も旅に限らず多くの服は必要ではないと考えています。
ただ、外国人だからこれで許してとばかりにどこへでもサンダル履きで侵入する旅行者にはなりたくないとも思っているのです。
バックパッカーのドレスシャツ

By: Rob Dammers
これは友人が若かりし日にバックパックを担いでヨーロッパを旅していた時のエピソード。
寝台列車の2等席に入ると彼の前には自分と似たような年頃のフランス人らしき男性2人組。同じく貧乏バックパッカーといった風体で薄汚れたTシャツにデニム、擦り切れたバックパックをベッドの奥に押し込んで寝そべっていました。
ああ、彼らも自分と同じ大学生だろうか。どこまで行くのだろうか。
なんとなく親近感を持った友人でしたが、夕刻になってその親近感はちょっとした憧れに変わります。なぜなら、2人組の若者がバックパックから取り出した白のドレスシャツに着替えて食堂車に消えていったから。
おそらくそのシャツ自体は高級なものでも特別に仕立てたものでもなんでもないでしょう。けれど、わざわざ着替えて食堂車に行くという発想を持っていなかった当時の彼の目には、2等席で移動する若きバックパッカーがドレスアップしてディナーに出かけるその姿がなんとも素敵に映ったと言います。
「その時に服の持つ力を感じて、状況に応じた装いを楽しむのっていいもんだなと思うようになったんだよね」
私がこのエピソードを友人から聞いたのは彼も私もすっかり大人になってからのことですが、ああいい話だな、と素直に思ったのでした。
「装いプレイ」というお遊び

By: Rennett Stowe
白いシャツ1枚がガラリと人の印象を変えてしまう。洋服というのはなんとも面白いものであります。
オリエントエクスプレスのような豪華列車でもないのにわざわざ食堂車に行くために着替えるなんて大げさな、とも言えるけど、シャツ1枚変えるだけで「ちょっと上質な旅のディナー気分を味わってしまおうプレイ」に興じるとはなかなか愉快な若者ではありませんか。友人が見とれてしまったのはきっとその2人組が美青年であったことも大きいのでしょうが、この何気ない出来事がいつまでも印象に残っているのはとても共感できるのです。
もちろん感じ方は人それぞれなので、同じ場面に遭遇してもなんとも思わずすぐに忘れてしまう人だっているだろうし、同じ年頃でもヨーロッパとアジアでは文化が違うんだなあと感じる人、自分の装いや行動と比較して意味もなく恥じ入ってしまう人などさまざまでしょう。その場にいた訳でもないのに状況を思い浮かべながら素敵な話だなあ、なんて思った私はおそらくシャツ1枚で気分を変えるプレイ賛成派、なんだろうな。
高価な品やブランド物に頼らずとも、楽しもうという心構えさえ持っていればよい。たった一枚のシャツで遊べる「装いプレイ」のなんと奥深きことよ。
人から聞いた旅のエピソードの中でもこれはものすごく好きな話なのに、舞台がどこへ向かう何という列車だったのかはすっかり失念してしまいました。寝台列車があってそこそこのクオリティの食堂車がついているヨーロッパの長距離列車、となるとシティナイトラインあたりかしら。何しろもう20年以上昔のことだから、今ではなくなっているかもしれないけれど。
若きバックパッカーだった白シャツ2人組も既に齢40を超えているはず。今はどんな大人になっているのでしょう。装う遊びは今でも続けているでしょうか。
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