遺伝子レベルで太陽を欲している。
両親宅を訪問するとそこには知らない外国人がいた。
いや、知らない外国人風男性と化した父親がいた、が正しい。
というか、かつては知らない外国人男性風にに父親が変化することは承知の上であった、が模範解答。
それなのになぜ今回はこんなに驚いたのだろうとよくよく考えてみれば、ここ何年間かは正月にしか帰省していなかったからに過ぎない。
そんなわけで、神戸にいます。
夏の風物詩
四捨五入80になろうという都会暮らしの老人とは思えぬ褐色の肌で現れた父。海辺暮らしでも農業に従事するでもない年金暮らしの男性がなぜかようにこんがりと焼けているのか、しかもTシャツ焼けとかじゃなくて結構な全身焼け。我が親ながら理解に苦しむところであります。
とは言っても、これは別に昨日今日始まったことではなく、私が物心ついた時から繰り返されてきた夏の風物詩。
「せっかくの厳しい日差しは自然の恵み、日陰を選んで歩くなど笑止」
と言い切る父は毎年夏が来れば日本人離れしたビジュアルに変身するのが常なのでした。その色合いをカラーコードで表現するなら#663232といったところでしょうか。決して地黒ではないのによくぞそこまで、と感心せざるを得ません。というのは嘘で感心するほどに呆れながら一体何を目指しているのか、何になりたいのか、と問いただせば
「火葬場でよく焼けるように下焼きに勤しんでいる」
と老人ならではのブラックジョークを繰り出してくる始末。
脳の病で倒れた時には家族揃って覚悟を決めたものですが、相変わらずで何よりです。
遺伝子レベルで太陽を愛する
長年の習慣である肌焼きについて、改めてなぜそうするのかと聞かれても本人にも明確な理由はわからないらしく、ただただ陽に当たるのが好きだから、という返答しか得られませんでした。しかし誰もが我が目を疑うその姿で一般的には洒落た街との呼び声も高い神戸を闊歩していたら職務質問されるのもやむなしかと思うのですが意外にそれはなく、それでも公園のベンチで焼いていると巡回中の警備員さんに
「熱中症に気をつけてくださいね」
と度々声をかけられるのだとか。そりゃそうだ、そんな丸腰の老人が炎天下で寝そべってたら誰だって怖いよ。ご迷惑をおかけして申し訳ございません、見知らぬ警備員さんよ。
しかし物事には限度というものがあるし、好きだけでそこまでするはずがない。異常なまでに太陽を欲する、または褐色の肌を渇望する何かが遺伝子レベルで組み込まれているのではないか、という仮説を立ててみたのですが別に真剣に論じるべき価値のあるトピックスでもないのでさほど深くは掘り下げず。とりあえずは夏と太陽をこよなく愛する父のためにメンズのギョサンをオーダーした次第です。
大病をしても特に落ち込むでもなく、退院当日から淡々とリハビリに勤しみ、今では自転車を乗り回したり暴飲暴食に励んだりが普通にできるようになるまで回復した父。別にひょうきんものではないけれど、何事にも前向き、というかあまりにも楽観的なその性格の大半を私も引き継いでいるのだろうなと思わずにはいられません。
「これだけ焼いてもなんともない自分の血を引いているお前の肌も本当は強いはずなのだ」
先日の皮膚科での検査結果を報告するとこんな見事なすり替え話法での叱咤激励すらいただきました。それとこれとは全くの別問題というか、そもそも私そんなに焼く趣味も予定もないですけどとりあえずありがとうございます。その何事も良いように考える技術を私も負けじと磨き続け日々精進したく思います。
そんなわけで、久しぶりの神戸の夏なのです。
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