その出来事に意味を持たせるのは誰だ。
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最終更新日:2016/05/27
生き方と考え方
酒ばっかり呑んでてお茶っ葉にはてんで疎い私ですがせっかくの台湾の旅、茶芸館なるものにも行ってみたいなあとふと思いつきたまたま通り掛った店にふらりと入店しました。
と言っても台湾茶はまるでど素人だし、一人だし、本格的なお作法を教えていただけるようなそれはなんだか敷居が高く思えて目に止まったおひとりさま用のお試しセット的なメニューをオーダー、何やらという烏龍茶をいただきました。
普段飲み慣れないからか、お茶、美味しい。
お茶にハマる人が多いの理解できるなあ、などと思いつつ歴史を感じる建物とインテリアの効果も相まって厳かな空気の流れるその空間にまったりと浸っていると事件はおきました。
思いがけない提案
そのお店は一番人気らしい見晴らしのよいテラスと奥に細かく仕切られて部屋がいくつもあるなかなか面白い作りになっていました。私が通されたのはテラスすぐ側でテーブルが2卓あるちょっと大きめの半個室空間。景色が見えるテラス側の席に座ってお茶を楽しんでおりました。
ああ、お部屋貸切状態で美味しいお茶をゆっくり飲んで、なんか贅沢な午後ですな。
比較的空いている静かな店内、まるでぬるめのお湯に浸かっているような心地よさを味わっていると程なく団体客が来店。なんの集まりなのかちょっとよく分からない老若男女国籍混合チームで中には日本人も混じっています。チームリーダーと思しき中国人男性は店の人とあれこれやりとりしながら結局私の背後に設置されたテーブルを選びメンバーは順に席に着き始めました。
個室の静寂はそれまでとは一転、とても賑やかな空間に早変わり。まあ別に私が貸切っていた部屋じゃないのでそれは当然のことで、おおっと急にワイワイし始めたな、くらいにしか思っていなかった、のですが。
「あれ、椅子がもう2つ足りないね」
「ちょっとこのテーブルじゃ窮屈かな?」
などとやりとりが続く中、リーダーが私の方を指差して店員さんに何か言っているのでああ、椅子を使わせてくれってことだろうなどうぞどうぞ、あ、もしかして相席かなあ。日本人の人が来たら何か気の利いたこと言ったほうがいいのかしら、どちらからですか?とか?などと構えていると案の定店員さんが私のところにやってきて片言の日本語でこう言いました。
「あなたのお茶のお金、あの人が払うから、もう出て行って欲しい」
??
ば、買収?いや、お茶もお茶菓子もまだ全然手付けてないんですけど?
全く想像していたなかった提案にびっくりした私は思わず
「はあ?」
と返してしまいました。
妄想スイッチをオンにする
一瞬意味がわからなかったなりに私の返しはおそらく
「はあ?(怒)」
だったようで、店員さんはすぐに
「いや、いいです」
と提案を引っ込めリーダー男性のところへ戻って行きました。なんなんだ。
いや、気持ちはわからなくはない。
なかなかいい空間だし、私のテーブルの方が見晴らしいいし、ここをグループで貸切にできたら居心地いいだろうなと思うのは無理もない。で、私の注文ときたらおひとりさま用のお手頃なお茶とお茶菓子で、団体客の落とす金額に比べると微々たるものなのだからちょっとくらい融通してくれてもいいんじゃないか、と店側に迫りたくなるのも無理はない。私だってテーブルを一人で陣取っているのは申し訳ない気持ちはあるし、空いている店だからできるけど、これが例えば混んでいる居酒屋だったら入店すら遠慮するシチュエーションだもの。だから居酒屋はカウンターある店が好きなんだけどさ。いや、今居酒屋の話はどうでもいいんだけども、
「すみませんが私たち、人数が多いのでその席を譲っては貰えませんか?」
ではなく
「金払うから出て行って」
はあまりお行儀よろしくないんじゃないの? 別に他の席ならいくらでも空いてるんだし。ていうか、店員さんもその提案なんだかなあってわかってるから一応聞いてはみたけど「はあ?」だけでさっさと引き下がったんでしょう。だったら私に聞く前にリーダーにそれはできません、って言えよ。
などと正直若干モヤっとしたのですが、次の瞬間に得意の妄想スイッチが入りました。
その出来事に意味を持たせるのは誰だ
今現実に起こっていることは、リーダーが金を払うから私をどかせろ、と店員さんに言った。ただそれだけ。
こっちも気持ち良くお茶してるのに金で解決しようとしやがってこのハゲ、などと勝手にマイナスの意味で捉えかけてしまったけれど、もしも私が訳あり旅行中の貧乏苦学生でこの300元をお茶に使ったらもうバスに乗るお金もない、とわかっているけど離れ離れになってしまった家族との思い出があるこの店でどうしても過ごしたかったんだ、みたいな状況であればリーダーの申し出はまさしく奇跡のような出来事だったでしょう。もうそれこそ神様ありがとう的な。
さらにリーダーの立場というのもなかなかどうして大変で。
ただの仲良しグループなのか、仕事関係なのか、はたまた単なるツアー客のアテンドなのかは終ぞわからなかったけれど、リーダーがメンバーの世話をあれこれ焼いていたところから察するに、リーダーはこの台湾ツアーは自分の仕切りにかかっている、と結構なプレッシャーを感じているのではないだろうか。で、この部屋を貸切にできたらさぞかしみんな喜んでくれるに違いない、だから申し訳ないけどあの人に協力してもらえないだろうか、いえいえ、もちろんお代は持たせてもらいます、みたいなことが店員さんの片言の日本語によってちょっとぶっきらぼうに伝わっただけじゃないのか。確かに英語だったらまた捉え方変わったかもしれないもんなあ、いずれにしても断るんだけど。
或いはこのリーダー、若くて可愛いらしいあの日本人の女の子に惚れてんじゃないの?で、ちょっとカッコイイところ見せたいその情熱が空回りして席買収という暴挙に出たのでは。年齢差いくつよ?まあ愛があればなんとやらって言うしね、がんばりなよ。あ、そんなにフサフサなのにさっきはついハゲとか言っちゃってごめんね。いや、ハゲてないからそこは謝らなくてもいいのか。
と、私の妄想が妙な方向にエスカレートし始めた頃には件のチームの様子も落ち着き、人数の割にはちょっと小さめのテーブルを囲んで和気藹々とお茶を楽しんでおられました。もちろん、私が出て行かなかったことを根に持つような態度を見せることもなく。
その後は一人の時とはまた違う種類の穏やかな空気の中で存分にお茶を楽しんだのでありました。
危ない危ない、勝手に出来事に悪い意味を持たせて失礼なことされた!とか勝手に思って勝手にプンスカして勝手に苦い思い出を作るところだったわ。
そうだった、現実に起こっていることは単なる出来事、それをどう見るか、どう捉えるかは自分が勝手に選べばいいんだった。
と、もうもうと立ちのぼる湯気を慎重によけて追加のお湯を茶葉に注ぎながら自分の身勝手な妄想になんだかニヤニヤ。その後は周りを気にすることなく自分のタイミングで店を出たのでした。ああ、自分は以前よりも随分自分の都合のいいように世界を見るようになって、おかげでかなり楽に生きれるようになったなあ、なんて考えながら。
はい、ご都合主義ですね、自己中ですね。自己中ですよ、すみません。でも、そのほうが楽しいよ。
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Comment
crispy様
旅行記楽しく読ませて頂いてます。
今日のブログは微妙な感情で読みました。
私も客商売を生業とする者として、何なら
表出ろや!ゴラァ!!……という状況。
そりゃ実際、表出て一戦まじえることは出来ませんが、
法律が変われば、やってやってもいいんだよ、的な。
そんな感情を「大人フィルター」に通して
まあまあとおさめる「アレな」感じ。
俯瞰から見れば、抜いた刀を収めるのが解決だなぁ、と。
そこのジャパニーズ、我々は席が足りない。
どうかね?この金額でどいてくれないか?
と直接言われた方がむしろナンボかスッキリする。
だけど、ハゲは…ハゲてないけどハゲは
そうしなかったから、イラっとくる。
自己中じゃないから!
安心してください!crispy!
あーわかります。もやっとした感情。俺はわかります。
提案。
次の都市に移動したら、一泊の宿を確保して
足腰立たなくなるくらい飲んで、消毒するというのは?
…子供の頃は志村うしろー!って言えたのになぁ…
何時から「言わない」大人になるんだろう?
ちゅーなーさん
共感してくださってありがとうございます。
なんだか大人ぶって自分の感情をごまかしているだけ、に見えるかもしれませんが、別に我慢しているわけじゃないんですよ。単に自分の目的を果たしたいだけで。今回の場合はとにかくゆっくり楽しくお茶を飲みたい、が私の目的でしたが、もしも相手に物申すことが今一番の目的だと判断したならそれなりの行動を起こしたでしょうね。そもそも大人げなく空気を全く読めない人間なので。
そして残念ながら私の場合足腰立たなくなる前に記憶が飛ぶのでそこまでは飲めません…。嗜む程度にとどめておきます。
とても府に落ちます。いい旅のエピソードありがとうございます。
ゆうこさん
コメントありがとうございます。
旅に出るといろんな出来事に遭遇しますが、なるだけ機嫌よく過ごせるようにしたいものです。
こんにちは。
旅行記、毎日の楽しみです。
この数日は、更新がないかどうか、一日2回くらいチェックしています(笑)
今回のお話は、またまた、とってもおもしろかったです(FunnyかつInteresting)。
ぶっきら棒な片言の日本語での唐突な申出。
物言いひとつ、声色ひとつで、ついつい、「イラっ」ときてしまうものですよね。
わたしは、変な妄想力が逞しく(?)、ついつい相手の感情を深読みしては腹を立てたり、はたまた、がっくりと落ち込んだり、そんなことをしがちです。
でも、そんなのは「相手が本当はどういうつもりなのか」じゃなくて「自分がどう感じてしまったか」だけのことで。
相手に悪意があるかどうかなんて、本当に自分サイドだけでの「妄想」にすぎないのだよなあと……。
すかさず気持ちを切り替えて旅を楽しまれているお姿、素敵です。
まだまだ、旅はつづくのですよね(わくわく)
お宿やお食事のまとめも楽しみです。
(羊の炒め物……食べた―い)
papipuさん
楽しみにしてくださってるなんて嬉しいです!
>ついつい相手の感情を深読みしては腹を立てたり、はたまた、がっくりと落ち込んだり、
これすごくよくわかります。
起こった事柄と直接関係なく自分で勝手に作り上げたストーリーに自分で勝手に悩んだり傷ついたり。よくよく考えれば滑稽な話なのですが、ハマるとハマっちゃうんですよね。私自身妙な考え癖を持っているな、と気付いたのはようやくここ数年のことだったりします。なんと遅咲きな。
最近ではだんだん自己中心的になってきて自分がとにかく機嫌よくいられることを重要視するあまりこんな風になんでも都合よく考えるようになりました。いいか悪いかはまだわかりませんが、なかなか楽しいです。
旅記録、あれこれ考えながら書いているのでなんだかとっちらかっていますがもうしばらくおつきあい下さると嬉しいです!
かなり前にcrispy-lifeさんのブログに感動してメールしてしまった者です。その節はありがとうございましたm(__)m。
その後も更新をいつも楽しみに拝見してます!
今回の記事、まさに自分の状況と重なってドシーンと来ました(勿論良い意味で、です)「出来事に意味を持たせるのは自分」モヤモヤするから思い出さないように思考を止めたいと思っていたけれど、頭を使うべきはそちらの方向だったか…。
keiさん
お久しぶりです、その後いかがお過ごしでしょうか? いつも読んでくださっているとのこと、ありがとうございます!
>モヤモヤするから思い出さないように思考を止めたい
ありますねえ、こういうこと。思い出さないようにしようと思ったら余計に囚われてそこから離れられなくしまったり。
私の場合は今回のように妄想力を発揮して楽しい方向へシフトするのがあっているみたいなのですが、どんな方法がしっくりくるのか、ラクになるかは人ぞれぞれだと思うのでいろいろ試してみられては。嫌な出来事に遭遇しない方法は多分ないけれど、何が起こってもいい感じに乗りこなせる技を持っていれば面白く生きていけそうな気はします。