作家、本当のJ.T.リロイ 人は本質以上に「誰が言ったか」で評価する。
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最終更新日:2019/10/30
生き方と考え方, 読書, 音楽、映画、芸術、世界
中身はもちろん大切。けれど時に内容やクオリティなどそれ自体の本質よりも
「誰が言ったか、作ったか」
のほうが重要視されることもあります。
私の仕事もこのルールに大きく左右されるところがあり、何の力も影響力も持たない自分を認識する毎日なわけですが、これは特に最近の風潮というわけではなく、昔からそうですよね。
いや、誰もが気軽に情報発信できる現在よりも、SNS登場以前のほうがその傾向は強かったのかも。
誰が言ったかが重要なのは、発信者も同じ
ハイブランドなら安心、芸能人が愛用しているなら効くはず、老舗なら美味しいに違いない。
私たちは自分で思っているよりもずっと「お墨付き」に弱い。
最近ならなんでしょうか。ジャスティン・ピコ案件とかでしょうか。
これは本質云々というか影響力が多分に関係することではありますが、普通の高校生がTwitterでちょっと待って、ピコ太郎のヤバみすごい尊い、とか書き込んだところで世間はビクともしないけど、ジャスティンの一言なら世界は変わる。
ジャスティンがお気に入りならイケてるはずとか、ブランドタグがついているからいいものだとか、専門家が勧めるならばそんなに変なものではないだろう、という期待値を元に何かを選び、評価する。そんな行動自体は悪いことではないし、大外ししないための知恵でもあるでしょう。
なぜなら何の考えもなしに、または金銭絡みとか大人の事情のみであれがいい、これがいい、と根拠なくなんでもすすめるような人物は誰も信用しなくなるし、そもそも本人の沽券に関わる問題。
無名ブロガーの自分ですら、適当なことを書くのは憚られるくらいなので、それなりの影響力があるインフルエンサーが何らかの情報を発信する際はそれはそれは細心の注意を払うものだろうと想像するのです。
誰が言ったかが重要、は、受け取る側はもちろん、発信する側にとってもデリケートな問題だなあと。
作家、本当のJ.T.リロイ

By: 作家、本当のJ.T.リロイ
誰が言ったかが重要、という点ではこの話もそうかなあと。
参考 作家、本当のJ.T.リロイ(UPLINK)
なぜ、“作家”ローラ・アルバートは10年もの間、J.T.リロイに物語を語らせたのか。世界を驚かせた事件の真実を、彼女自身の言葉とセレブたちの通話音声によって解剖する。
セレブたちを魅了した謎の天才美少年作家の正体は、40歳の女性だった。という嘘のようなホントの話について、騒動を巻き起こした張本人が語るドキュメンタリーです。
鑑賞予定の方は以下ネタバレご注意を。
予備知識をあまり入れずに観たかったのでローラの現在に関する情報は見聞きしなかったのですが、身振り手振りを交えて語る彼女の様子にちょっと拍子抜け。真実が発覚してからかなり時間が経っているからもあるだろうけれど、彼女が起こした事の大きさを考えると、あまりにも淡々として見えたのです。
淡々と、というか、他人事、というか、昔見た映画のストーリーを読み聞かせしているような、というか。けれど、セレブや医師たちと交わした電話を録音するなどして、緻密に事の次第を記録し続けていたところには一種の狂気を感じます。
まるで数年後にこの事件を回想するところまでを想定した大掛かりな「作品」を最初から企画していたかのようだなと。
しかしローラのパートナーであるジェフの妹・サヴァンナはリロイのアバターとしてホントにちょうどいい。
決してブサイクではないけれど美少年過ぎず(女性だけど)、ヘンなウィッグはそれなりに怪しく、体格も中性的な雰囲気で絶妙なリアリティ。ローラが彼女をリロイに仕立てようと閃いたのもわかるような気がします。
ローラもローラだし、長年に渡ってリロイになりきったサヴァンナも相当どうかしてる。登場人物中一番人間くさい平凡さを持っているのはこの秘密をあっさりメディアに売ったジェフなのかもなあ。
作品よりも、作者のドラマに心酔する人々
J.T.リロイの最初の作品、「自伝」という形で出版された「サラ、神に背いた少年」には私自身は全くシンパシーを感じませんでした。そもそもバイオレンス系ストーリーが苦手だし、壮絶な過去を持つ少年の自伝ではないと認識した上で読んだからかもしれないけれど。
私の好みはともかくとして、この作品を単なるフィクション、読み物として評価する人もいたはず。けれどそれ以上に、病魔に犯された元ジャンキーの女装の男娼の自伝であるというセンセーショナルな「事実」がウケた、のでしょう。
いいか悪いかは別として、本人が制作したものではないけれどそういうテイで発表される作品なんて世の中には山ほどあるし、制作物と本人のカラーが全く異なるケースだってよくあること。それなのに多くの人が騙されたと感じたのは、やはり作品自体ではなく心と体に傷を持つ謎の少年にこそ心酔していたからか。
そして誰が言ったかが重要、という点で見れば、世界が注目した天才少年作家など存在せず、金髪ウィッグに大きなサングラスで素顔を隠すシャイな「少年」がたった50ドルで雇われたアバターだと疑いもせず、メディアの前でリロイの才能を絶賛してしまった錚々たるセレブ陣のバツの悪さよ。
ローラの行いが詐欺行為であるとして映画化契約絡みで訴訟を起こされ、多額の賠償金の支払いを命じられたのは仕方ない部分があるとしても、契約関連で実害を被った訳でもない人々の
「裏切られた」
という感覚は、
「しまった」
という気持ちも含まれていたのではないかなあと想像するのです。
誰もがいつも何者かを演じながら生きている
もちろん、ローラが計画した一連のリロイ騒動は単純な替え玉騒ぎではなく、ドラッグや病気、ジェンダー問題に苦しむ人々を傷つけたという点でとても罪深い。
けれどそれを差し引いても、セレブリティ達の行動は恥ずかしいというか、かなりマズイ。
いやあ、マズイよね。PPAPとはワケが違うし、設定を了承の上でユニット芸を味わう叶姉妹的娯楽とも別物だからね。
現実に自分がこんな目にあってしまったらコートニー・ラブみたいにあっけらかんとできたらいいなあと思うけれど、実在しない人物と大昔から知り合いだと言い放ったウィノナ・ライダーは敢えて乗っかった感満載でなんだか闇深い。
と、感じた事を思いつくままに書き連ねてしまったけれど、これ、遠い世界のおとぎ話に見えてその実日常に溢れてる話でもあるなあと。
例えば、ゲームなどの仮想世界で別人格を演じるとか、Twitterでは普段と違うキャラになるとか、自分ではない何者かになりたいと願う、なんてのはどこにでもある話。
ローラほど大それたことはできないにしても、誰しも自分の中にあるいくつかの顔を意識的であれ無意識であれ、常に使い分けながら生きている。
もちろん、私だって。crispyって誰なんだよ、といつも思うもの。
映画自体の作りがそうさせたのか、はたまたローラの他人事っぽさに悲壮感がなかったからか、想像していたよりもずっとしんどくはなかったこのドキュメンタリー。J.T.リロイを演じ続けたサヴァンナ・クヌープ視点のリロイも映画化されるようなのでちょっと観てみたいです。
しかし前回もだけど、最近こういうしんどい系のドキュメンタリーばっかり観てるよなあ。
しんどいと言いつつもなぜ観たいのか。そりゃ現実は小説より奇なり、だからでしょうね。
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