「今の自分」に似合う服 パーソナルスタイリストの視点とは。

By: Jason Hargrove
随分昔の話ですが、知り合いからとあるイベント出演者の衣装スタイリングの仕事を打診されたことがあります。
海外でのイベントだったし、面白そうな話ではありました。
が、結局はお断りしました。
基本的に経験のない仕事でも興味を持てること、できそうなことであれば積極的に引き受けるのですが、衣装関連はさすがに安請け合いできないなあと。
まあ本職のスタイリストさんに依頼するには予算が足りない、という理由で私に来た話であろうことは明白だったので、そのイベント自体がどうなったのかも今となってはわかりませんが。
思った以上に耳の痛い本

By: Hans-B. Sickler
突然そんなエピソードを思い出したのは、スタイリスト・植村美智子さんの「「今の自分」に似合う服 」を読んだから。
書籍紹介ページには
おしゃれに見せるのは、ほんの少しのコツだった
コーディネートがしっくりこないなど、着こなしに関する、もやもやした疑問。雑誌や広告だけでなく、個人向けコーディネートサービスでも活躍するスタイリスト・植村美智子さんが、そんな疑問をていねいに解きほぐします。自分では気づかないおしゃれのコツや、ワードローブチェックの実例などを通じ、「『今の自分』に似合う服」を見つけるヒントを紹介する一冊です。
とほんわりと耳障りのよい言葉が書かれているけれど、いやいやこれ、そんな優しい本じゃないでしょう。
以下、目次より一部抜粋。
■chapter 1
着こなしがしっくりこない理由■chapter 2
「ワードローブチェック実例集」■chapter 3
ワードローブチェックの方法普段、植村さんがコーディネートサービスで行っているカウンセリングやワードローブチェックを自宅で行える方法を紹介。
漫然と思い描くだけではたどり着けなかった、「自分らしい着こなし」「目指すべきコーディネート」へ向かうヒントが、きっと見つかります。
著者の植村美智子さんはスタイリストとして雑誌等で活躍した後、2010年よりパーソナルスタイリストとしての活動も始められました。今時プロのスタイリストが自著を出版するなんて珍しいことではないけれど、この本は植村さんのパーソナルスタイリストとしての経験がみっちり詰め込まれている分、他のスタイリストによるコーディネート指南書とは異なります。
タイトルからして臭う、と思っていたので読むのを楽しみにしていたのだけれど、これ、想像以上に厳しかった。
それもそのはず、植村さんは経歴からするとおそらく私と同世代。
- 自分の一番良かった頃のファッションを引きずったままの人が多い
- 好きなものを着ればいいけど、好きなものはどんどん似合わなくなっていく
- 服が似合わなくなるのは肌や髪も年を取るから
- メイクと服が合っていない場合もある
- 若く見せようと頑張りすぎて逆に老けてしまう理由
とまああんまり書くとあれですが、耳が痛い。痛すぎる。
別にご意見番よろしく辛辣な言葉を並べてズバズバ切っている、なんてわけではないのですが淡々と、そしてパーソナルスタイリストとして多くの「普通の人」のワードローブを見てきたからこその重みある言葉が次々出てきてひぃぃー、となるのです。
さらにはシンプルな服をカッコよく着こなすハードルの高さやファストファッションのプチプラアイテムをそうとは見せず着こなす難しさ、安心安全の「永遠の定番アイテム」を選ぶ危険性など、もうなんか耳痛いの通り越して息も絶え絶え。
しかも、ご本人が同世代だからねえ、いちいちリアルなんですよ。
普通の人の普通の服。で、普通ってなに?

By: Emily May
そして巻末では実際に植村さんのスタイリングサービスを利用した「普通の人」の例が写真付きで掲載されています。
これも、すごくリアル。
撮影用に見栄えの良いプロモデルを立てるわけでも、ファッション感度の高い業界人を出すわけでもなく、いつも同じような着こなしになってしまうOLさんとか、お祖母様のお下がりをたくさん持ってます、なんて人たちのアイテムとコーディネートが並んでいるのです。
みんな普通の人。でも、みんな違う。そしてそれぞれしっかり個性がある。
普通の人が持っているアイテムに何かを足したり引いたり、新たな組み合わせをしたり、手放すべきものを提案したりしつつ、プロのスタイリストの目線で普通のワードローブに新たな息吹を与えていく。
ああ、そうだよね。普通って一言で言うけれど、みんながみんな同じわけがない。誰にでも似合うシンプルなアイテムなんてものはこの世に存在しないんだ。
パーソナルスタイリストという選択肢

By: THOR
人間離れしてはいるけれどある意味「お手本」のようなスタイルを持つプロのモデルに各ブランドのプレスルームからお貸出しされたアイテムを合わせ、洋服を美しく見せる撮り方をする。それはもちろんプロにしかできない職人技だし、ファッション誌は誰もが夢のあるスタイルを疑似体験できる貴重な存在。
でも残念ながら、そこで展開されているのは私たち一般人がそっくりそのまま真似できるものでないことも確かです。
そんなことはわかってるよ、といいつつも実際問題わかってないから
「誰にでも似合う永遠の定番アイテム」
とされるものを自分に似合う似合わないは考えずあっさり手に入れちゃったりするのかもしれません。
人それぞれ体型も、好きなカラーもテイストも、憧れのスタイル像も、なりたいイメージもまるで違う。
プロとの仕事であればある程度モデルの力によって「似合わせる」方向に持って行くこともできるでしょうが、私たち一般人はそうはいかない。だからこそ、プロとの共同作業である雑誌や広告の仕事を経た後にあえてパーソナルスタイリストサービスを始めるのは大変だったのでは、と想像するのです。
話は戻って。
私がスタイリングの仕事を断ったのは、自分以外の誰かに似合う服を選んだり、丁度いいサイズ感を見たりなどという基本的な素養がなかったから。
ファッションは好きだし、自分の体型に合うシルエットや好みのテイストならわかるけど、なで肩の人にはこう、あなたは首が長いからこれがいい、なんてことは皆目わからないし、ましてや宣材写真とサイズのデータをチェックしただけで
「その人の魅力を引き出すコーディネイト」
を作り上げるなんてことはできないと判断したのです。あれが似合う、こっちがいいよ、なんて友達に対して自分の主観入りまくりのアドバイスはできたとしても、きちんと理論立てたコーディネイトをするのは無理。
餅は餅屋、ってね。
洋服のことであれこれ悩む時間が楽しいならいいけれど、そうでなければ考える時間ごとアウトソーシングできる時代。プロのアドバイスを一般人が気軽に受けられるようになるなんて、いやいや、いい世の中になったもんですよ。
本当に知りたいのは「今の自分」に似合う服
パーソナルスタイリストというと
「いつもは地味なお母さんが美魔女に変身!」
とか
「ポロシャツばっかりのお父さんをもっとダンディに!」
なんて、ノックは無用の「魅惑の変身」的なアレを想像してしまいますが(古いわ)植村さん主催の「liltin」のサービスはどちらかというと少ない服を上手に着まわしたい、服をもっと減らしたいけどなにをどうすればいいのかわからない、といった人に合うのではないでしょうか。
参考 ワードローブチェック コース(liltin)
物を大事にして、長く着ることは大切です。
でも、気持ち良くおしゃれでいるために、
不要なアイテムたちに潔く別れを告げ、
使えるアイテムを使いやすい環境に置いてあげるのも大切なこと。
まずはカウンセリングで、お客様からじっくりお話を聞き、お悩み、
ご希望をしっかり共有した上で、お手持ちのアイテムを拝見いたします。
いつも決まったコーディネートになってしまうアイテムを、
もっと活躍させる方法もご提案いたします。
と、またまた長くなってしまいましたが、持っている洋服が突然似合わなくなったと感じている、薄々わかっちゃいるけどもっとズバッと私の過ちを突いて欲しい、こなれ感のある着こなしテクニックを知りたい、そして何より、自信をもってファッションを楽しみたい。そんな方にはオススメの1冊です。
ファッションに迷う40代女性としては、結構、痛いとこ突かれる本ですけどね。
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